陰陽師としての晴明の得意技は、式神を自由自在に操ることでした。式神とは、もとは、神や木片に過ぎないものですが、これに、霊力をもつ陰陽師が、息吹を入れることによって命令を忠実に実行するしもべに変わります。晴明は、懐に常に、何枚もの紙を忍ばせていて、必要なときには目的に応じて鳥や動物、人間の形をした式神をつくり、自在に操ることができた、と伝えられています。
そんな晴明の不思議な術をみたいと思う好奇心旺盛な人々は多かったようです。『今昔物語集』『宇治拾遺物語』(うじしゅういものがたり)にも、僧が、術の披露を晴 明にせがむエピソードがあります。
あるとき、晴明が、嵯峨野にある真言密教の高僧広沢僧正のお住まいに伺って、何かの用事を承っていたときのこと。若い僧たちが晴明にむかって、「式神を使うところを見たい」とせがみます。一度は断る晴明でしたが、ちょうど、そこへ、庭から蛙が、五、六匹ほど飛び跳ねて池のほとりに行くのが見えました。それを見た僧たちは、「それでは、式神を使ってあの蛙を殺してみて下さい。」と晴明に頼みます。
「罪つくりなお坊さんですね。それでも、私を試そうとおっしゃるのでしたら、殺してお見せしましょう。」そういった晴明は、近くに生えていた草の葉を摘み切って、呪文を唱えるようにして蛙に投げてやりますと、その草の葉が蛙の上にかかった瞬間、蛙はぺちゃんこにつぶれて死んでしまいました。
「これを見た、僧たちは顔色が変わり、あまりに恐ろしさにぞっとしてしまいまし た。」という言葉で、この話は閉じられています。
きっと、僧たちも目の前で起こった噂以上の力にびっくりしたのではないでしょうか?
このように、式神は、時には、呪詛の手先として人を殺すことも出来る恐ろしい存在でした。が、それだけではなく、他にも式神の種類は、いろいろあったのです。 |