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京のお話

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市田ひろみさんの

京都論


第27回 成人式は遊女スタイル

成人の日が早まってから二十歳の娘さんや息子さんがおられる家庭は、年末年始に引き続き大忙しだったのではないでしょうか。写真は綺麗に撮れましたか?何か気分は変わりましたか?  

成人式の日に着付けに来られたお嬢さんから、「前帯で結んでください」と頼まれたことがあります。 前に帯を結ぶということは、遊女風のスタイルでやりたいということです。 それはそれはびっくりしました。京都では島原、大阪では新町、吉原、長崎では丸山と、かつては遊女が妍(けん)をきそい、あらゆるぜいたくが許された遊興の町がありました。 男性にとっては欲望を解放することのできる華やかな町も、女性にとっては悲しい歴史を背負った町でもあります。 このお嬢さん、遊女がどういうものだったのか知っているのかしら。 わたしは考えこんでしまいました。

 ところが、わたしは二度びっくりすることになりました。お嬢さんが持参した大きな包みからでてきたのは、緑の地に金の松模様の振袖、重ね襟は自分で買ってきた金色と黄色の布、組紐もしごきもすべて自分で選んできたというのです。 びっくりのとどめ撃ちは、螺鈿(らでん)のお箸でした。この箸をアップした髪に差してほしい、というのです。笄(こうがい)のつもりなのでしょう。 包みからは、髪飾りや小物類がつぎつぎに出てきました。 彼女は、遊女のスタイルを一生懸命考え、全部自分で用意してきたのです。

 わたしもプロです。 自分の考えをもって、周到な計画できちんと用意してきたお嬢さんの熱意にうたれ、希望どおりに着つけることにしました。 彼女の用意したきものや小物類が故実にのっとったものではないので、正式な太夫の姿にはなりませんでしたが、いかにもそれらしく仕上がりました。 彼女はそれが気に入って「おとうちゃん、でけたでえ」とうれしそうに電話して、父親の到着を待ちました。 父親が到着して、びっくり。お嬢さんの父親というのが、友禅の仕事をしているわたしの知り合いだったのです。 「いや、おたくのお嬢さん?」「そうですのや」とニコニコと答えていた父親ですが、娘の姿を見て、「おまえ、なんやそれーっ」とたちまち顔面蒼白になりました。

 「結び直せー」父親の怒鳴る声。 お嬢さんも負けません。「なにゆうてんの。わたし気に入ってんのや。遊女みたいにしたかったんや」「おまえ、遊女でなにする女か知ってんのか」「やらしいなあ、お父ちゃん。ファッションやんかあ」おろおろと、そのやりとりを聞いていたわたしに、「先生、どない思います?」 父親の気持ちもわかるし、お嬢さんの熱意にもほだされ、わたしは板ばさみになってしまいました。「お父ちゃん、わたしにとってたった一回の、生涯一回の成人式やんか」「わしにとっても一回きりや……」

 やはり親は強いなあ、としみじみ思いました。 結局、記念に写真だけを撮って、普通の結びに直して一件落着となりました。 結びを直している間も、お嬢さんは最後まで「わたしはさっきのほうが好きやわ」とつぶやいていました。 その後、グラフィックデザイナーをめざしてアメリカに留学されたそうですが、センスのよいお嬢さんにしてみれば、たぶん「こんなスタイル、だれもいいひんやろ」とアヴァンギャルドな感覚に走りたかったのでしょう。 彼女には遊女につきまとう暗いイメージなど無縁なものだったのです。

 京都でも、若い世代は新しい常識をつくり始めているのです。 でも、父親の気持ちもわかる。 板ばさみになったのは、わたしではなくて、もしかしたら今の京都の姿そのものだったのかもしれません。

生まれたままではええ女になれない。
ええ女になってや!

市田ひろみ著『ええ女の作法 四十四の極意』より

まとめ:e京都ねっと 小山



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