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京のお話

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市田ひろみさんの

京都論


第17回 市田流・"弘坊さん"ショッピング

京都二大縁日、毎月二十一日に東寺の"弘坊さん"と二十五日に北野天満宮の"天神さん"があります。 境内にずらりと露店がならんで、地元の人や観光客でたいそうにぎわいます、庶民の青空デパートといった趣です。 国宝級の古文書がまぎれていたこともあるそうで、わたしも古着屋さんが出展をするのを楽しみにしています。

 東寺の縁日の古着屋さんで、気に入ったきものを見つけました。 でも、思ったより値段が高い。この古着屋さんは有名で、東京や全国各地からの観光客がたくさん買いに来ます。 ちょっとあたりを見回すと、なるほど値切っている人もいます。  

「ほら、穴あいてるじゃん」
「ここ、ほころびてる」
「だから負けてよ」

 ケチをつけ、弱みにつけこみ安くさせようと一見賢いようですが、あまり良い結果に結びつきません。 

 わたしはおっちゃん、これ、ものすごええわ。うち大好きやけど、財布の中がさみしくて・・・」といってみたら、おっちゃんは「よっしゃ、あんたは気持ちがええ。 たいていは、けなして負けさせようと思いよんで。 そやけどあんたは、ほめてるわな。」とちゃんと負けてくれました。 商売人には商売人のプライドがあるから「本当に欲しいものやったら、ケチつけて負けさせんでもええ。」というおじさんの気持ちもわかります。 その後もよくおじさんの店へ立ち寄り、今ではもう顔なじみです。 「あー、また来たんか。」といって、ライトバンからいい品物を出してきてくれます。  

 いい品物とは、明治の初めや、江戸時代末期の貴重な古い物ですが、最初から露店に広げておくと、きものもろくに知らない人が乱暴にさわって破れますから、ふだんは隠してあるのです。 おじさんに気に入ってもらえなければ、見ることもできないのです。「わしかてな、ええのんが売れるときはさみしいんやで。」商売をしているくせに、思い入れのある品物が売れるときはさみしい。 だから「大事にするでぇ」といって帰ってくれたら、「ほんま、うれしい」のです。

 商売といっても、なんでも売れて、その日の銭がかせげたらいいのとはまったくちがいます。 私もいい気分で買い物ができおじさんも気分のいい客だと思ってきれいにつき合っておかないと、次には行けません。 同じ負けてもらうのでも、あとに怨恨を残したり、相手を傷つけたりして買っていくのは、賢くありません。 

 京都の人は日常的にけっこううまく値切って「いや、よろしなあ、そやけどええお値段どすな。わたしらの、身分に合いまへん。」とお客が先制攻撃。 お店の人も「そんなこといわんといておくれやす。考えさしてもらいます。」と商談開始。 双方かけひき上手。いきなり「高いヤン」と、店が無謀な値を付けているかのような言い方はしません。 売った買ったの勢いも商談にはいらないのです。 威勢がよくても、後から「しまった」となるだけでしょう。 

 ほめてほめて値切るのは、長い目で考えてもずいぶんな得になっています。

市田ひろみ著「京の底力」 ネスコ文芸春秋より

まとめ:e京都ねっと 小山



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