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京のお話

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茶の湯入門
第1回【茶の湯は当然のタシナミ?】

京都に引越すということがなかったら、未だにお茶とは無縁の暮らしをしていたかもしれない。 幸せなことに関西では、伝統文化に触れられる機会がそこここにたくさんあった。

 その日、私たち夫婦は、舞楽を見るために、大阪の四天王寺に出かけた。 舞楽を楽しんだ後、境内を散歩していると、お茶券売り場があった。 京都では、観光客に手軽なお抹茶サービスをしてくれるところがそこら中にあったから、私たちも取りたててお茶の嗜みとてなかったが、喉が渇いていたことも手伝って、ひとまず順番待ちに並んでみることにした。 正式なお茶会であったと気づいたのは、お茶席に通されてからである。

 お茶の前に出されるお菓子、これが問題だった。 見ていると、他のお客さんたちは、お菓子を取り分ける紙(懐紙)と楊枝(菓子切り)を持参しておられたが、むろん、私たちにはそのような嗜みはない。 さらに悪い事にお菓子はぷりんぷりんとした葛饅頭だった。 添えられたお箸(黒文字)では掴むことすら難しい。 挟もうとすればつるりと滑る。 見かねた隣のご婦人が、お菓子用の持ち帰り小袋をくださった。 これに入れれば食べられないお菓子は、家まで持って帰れるらしい。 冷や汗をかきながらお茶をいただき、周りを見回してさらに驚いた。

 近所のおっちゃん、おばちゃん、若い女の子、小学生までいる。 皆、別段特別のことというふうでもなく、当たり前にお茶を飲んでいる。 お茶は特別な人が嗜むもの、と思っていたのは間違いだったのだ。私はそのことに驚くとともに感動すら覚えた。 この日のリベンジを果たすべく、それから一年後、私はお茶の先生の門を叩くことになったのだった。

普段松村栄子著「ひよっこ茶人の玉手箱」マガジンハウスより

まとめ:CyberDecker田村敦美

松本栄子

1961年静岡県生まれ。筑波大学第二学群比較文化学類卒業。 90年「僕はかぐや姫」で海燕新人文学賞、92年「至高聖所」で芥川賞を受賞。 主な著書に「僕はかぐや姫」「至高聖所」「セラヴィ」「あの空の色」「001にやさしいゆりかご」「生誕」などがある。

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